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障子岩・祖母・傾縦走 (2006年10月16日〜10月19日) → 写真集


 3年前に九州屈指の縦走路と言われる祖母・傾の縦走を企て、1日目であえなく断念したことがある。途中で登山靴の底が剥がれるというトラブルが発生して引き返さざるをえなかったのだ。皮製の登山靴はしばらく履いていなかったので靴底の接着が劣化していたらしい。登山用品店で靴底を張り替えてもらったが、もう一度挑戦しようという気にはならず、今日まで日帰り登山を繰り返してきた。

その後、2004年5月に尾平越のトンネルから祖母山往復と笠松山往復を行い、2005年6月に見立から傾山と笠松山に登った。それ以前に尾平から宮原経由で祖母山へ、九折登山口から坊主尾根経由で傾山へ登っていたので、これで祖母・傾縦走路を全て歩いたことになる。しかし、なんとなく釈然としない。やはり、通しで歩いてこその縦走路なのだ!

50歳を越えて体力も低下してくる。それに最近は日帰り登山が主で、重いザックを背負うことがない。まずは訓練からと思い、近くのダム湖の周りをジョギングしたり、ホームグラウンドの三郡山地でボッカ訓練の真似事を始めた。昭和の森から三郡山まで標高差約700mを時間はともかく30kgのザックを背負って何とか登りきることが出来るようになった。最後に若杉山から宝満山までの縦走を計画したが三郡山山頂で時間切れとなり、ザックに詰めた15Lの水を捨てて途中から下山するハメになってしまった。祖母・傾の縦走実現はまだまだ遠いと思っていた。

しかし、そうも言っていられなくなった。9月に受けた大腸がんの検診が大当たりで、10月末に手術をすることになってしまったのだ。手術をすれば体力(特に足の力)の低下は免れない。今までの訓練が水の泡かとあきらめかけたが、別に体調は悪くはないし、入院するまではまだ時間がある。入院前に何とか計画を実行すべく準備にかかる。

前回は九折登山口から傾山へ登り、祖母山、障子岩尾根へと向かう予定であったが、今回は逆に上畑から前障子岩へ登り、大障子岩を越えて祖母、傾と縦走して上畑へ戻る周回コースを歩く事にした。未経験の障子岩尾根を最初にやっつけてしまおうという訳だ。

一般的には祖母山九合目小屋と九折越小屋に泊まる2泊3日の行程であるが、祖母山から九折越まで1日で歩ける自信がない。今回は、間にぶな広場を挟んで3泊4日のテント泊で計画をたてた。


行動日程

2006年10月15日(日)上畑の健男社駐車場で車中泊。
2006年10月16日(月)上畑から前障子岩、大障子岩を越えて池ノ原へ
2006年10月17日(火)池ノ原から祖母山、障子岳、古祖母山を越えてぶな広場へ
2006年10月18日(水)ぶな広場から本谷山、笠松山を越えて九折越へ
2006年10月19日(木)九折越から傾山、坊主尾根を越えて上畑へ

MAP

前日 2006年10月15日(日)晴れ

 いつものように東峰村の岩屋駅で水を汲み、R211を日田へ向かう。日田から小国、瀬の本、竹田と繋いで、緒方町から県道7号線を高千穂方面へ向かう。上畑で九折登山口方面へ向かう道路を左に見送って尾平方面へ進むと、すぐに右手に鳥居と杉の巨木が並んだ石段が見えてくる。健男社である。

健男社の鳥居から少し引き返すと、右へ登る細い車道(入口に「障子登山口」の道標あり)がある。この車道に入り数軒の民家を過ぎると、最後の民家の手前で左へ沢を渡って進む道路が分岐している。この道路は健男社の駐車場へ向かう道路で沢を渡る手前に登山届けの箱が設置してある。ここが障子岩登山口である。

健男社の駐車場に車を停めて登山道の様子を見に行く。最後の民家の横を通って車道終点から杉林の中へ入って行く。登山道は明確そうで、所々に道標も設置してある。しばらく行くと女性の登山者が一人降ってきた。熊本の人で前障子岩に登って来たそうだ。大障子岩まで行く予定だったが前障子岩から大障子岩へ向かう登山道が見つからなかったそうで、登山道の険しさをしきりに強調していた。少し不安になってきた。。。

今日は健男社の駐車場で車中泊する。

(写真:健男社の参道)


第1日目 2006年10月16日(月)晴れ
 上畑 → 前障子岩 → 大障子岩 → 池ノ原

 さあ、いよいよ縦走開始だ!
午前5時25分、ちょっと高揚した気持ちを抑えながら健男社の駐車場を出発する。登山届けは前日に記入してある。障子岩登山口を通り過ぎて民家の横を抜け、林の中へ入って行く。LED式のヘッドランプは家の近くのホームセンターで買った安物だが電球式のものに比べるとはるかに明るく、登山道を確実に照らしてくれる。

急坂を30分程登ると一旦尾根にでる。日の出まではもう少し時間があるが、大分明るくなってきたのでヘッドランプをしまう。尾根を少し登った後、左へトラバース気味に進む。なるほど木の根と岩が多い道であるが、この程度ならば問題はなかろう。重いザックを背負って登るとき、一番疲れるのは倒木の下を潜るときである。倒木が少ないことを祈りながら歩く。涸沢を過ぎて、次の沢には水が流れている。水はザックの中に2Lと外に1.2Lのプラティパスと500mlのペットボトルを用意していたので途中で呑んだ分だけ補給して出発する。

沢の右岸沿いに少し登ったところに赤い字で書いた道標があり、再び急登が始まる。岩の間を這い登り、落ち葉が敷き詰めた登山道を登って行く。ザックの重さに負けてペースは一向に上がらない。とにかくバテ切らないようにゆっくりゆっくりと登って行く。

正面に大きな岩が立ちはだかっているところで、登山道は左へ岩の基部を巻いて行く。次第に降り気味になって来たので林道へ降ってしまうのではないかと、ちょっと不安になる。しかし、道は明瞭でこれ以外には見当たらない。そのまま進むとやがて尾根上に出た。ちょうど鞍部になっていて右側は岩稜に木が生茂って紅葉している。左側へはさらに登りが続き、急坂を10分程登ると明るい開けた尾根に出る。西側は露岩になっていて展望が開けている。大障子岩が霞の中にうっすらと見えている。

露岩から右へ少し降り急坂を登ったところが1204mのピーク(黒岩山と呼ぶらしい)である。ここも大きな岩のピークで松の木が生えている。

黒岩山を過ぎると木の間から前障子岩らしい鋭角に盛り上がったピークが見えてくる。しかし、足は進まず、さらに1時間程かかって、やっと前障子岩山頂直下のカンテにたどり着いた。昨日会った女性が大障子岩への道が分からなかったと言っていたが、カンテの基部の左側に「祖母山」と書いた古い道標が木に取り付けてあり、踏み跡が笹の中へ続いている。これが大障子岩方面への縦走路だ。ザックをデポして山頂への岩場に取り付く。両手両足を使って登って行き、岩場を過ぎて南西へ少し行くと前障子岩の山頂に到着する。

前障子岩の山頂は潅木に囲まれた狭いスペースで中央に三角点と「前障子岩」と書いた山頂標識が立っている。山頂からさらに奥へ少し進むと展望の利く岩場がある。正面には大障子岩が相変わらず霞んでいて、祖母山は完全にモヤの中に隠れている。本来なら祖母山まで続く尾根の雄大な景色と祖母から本谷山、傾山と続く稜線が一望できるのであろうが、今日は見ることが出来ない。登山口を出発してから既に5時間が経っている。ここで時間を食うわけに行かないので急いでカンテの基部へ降り、大障子岩へ向けて出発する。

前障子岩の岩壁の南側を巻いて再び尾根に出る。汗ぐっしょりになってアップダウンを繰り返しながら進むと、大障子岩の特徴のある岩峰群が次第に大きくなってくる。大きな岩壁が立ちはだかるところで昼飯休憩を取る。そろそろ大障子岩山頂部の岩峰群に差しかかっただろうと思っていたが、ここからが大変で、登山道は右へ左へ上へ下へと岩場を縫うように進む。岩と木の根につかまりながら体を引きあげて行く。大障子岩は遠くから見ると三つのピークの塊に見えるが、これらひとつひとつが大きな岩の塊で複雑な地形をしている。ひとつのピークを過ぎると、またひとつ目の前にピークが立ちはだかり、それを過ぎるとさらにまたひとつ。。。

最後のピークが大障子岩山頂である。山頂は縦走路から少し右へ入ったところにある。大障子岩も西側に絶壁を持っていて祖母山から本谷山、傾山と繋がる稜線を一望できる。祖母山はまだ霞んでいる。時刻は14:00になろうとしていた。疲れ具合と、歩くペース、祖母山までの距離などを考えると九合目小屋までたどり着けそうにない。今日は行けるところまで行ってキャンプすることにした。候補地として「池ノ原」が頭に浮んでいた。なんとなくキャンプに適した場所がありそうな名前だ。当然、水場は無いので徹底して水を節約する。水の残りは全部あわせて1.5L程だ。明日、九合目小屋への登りで使う飲み水も取っておかないといけないので、今日の夕食は水を使わないようにしなければならない。などと考えながら大障子岩から降って池ノ原へと向かう。

大障子岩の次のピークへの登りに差し掛かるところから後を振り向くと、大障子岩の絶壁が大迫力で聳えている。ピークをひとつ越えて降りきると八丁越で、まず、左側から尾平からの道が合流する。さらに少し行った所で、こんどは右側から神原・白水からの道が合流する。

八丁越から約50分で鹿ノ瀬と呼ばれる岩場に差し掛かる。このコース最大の難所と言われている所だ。左側はほぼ垂直に、右側はやや斜めに切れ落ちている。後ろには岩峰が聳えている。岩が濡れているときは危なそうだが、今日のように乾ききっているときはそれほどでもない。しかし、重荷を背負っているのでバランスを崩さないように足場を探しながら慎重に渡って行く。

鹿ノ瀬を過ぎるとアップダウンも緩やかになる。池ノ原が近付いて、登山道の周辺に平坦な場所が増えてくるとキャンプ適地を探しながら歩く。もう少し先へ、もう少し・・・と進んで行くと「池ノ原展望台」の標識がかかった露岩の展望台に着く。どうやら池ノ原に着いたようである。

展望台から少し先へ進んだところにキャンプに適した平坦な広場がある。時刻は16:41。今日はここでキャンプすることにする。広場は一面の落ち葉で快適そうである。早速テントを張って寝る準備をする。夕食はパンとエネルゲンなどの行動食で済ませ、水分はフルーツ缶で採り、できるだけ水を使わないようにする。日が暮れると早々に寝袋に潜り込む。テントの周りでは鹿や小動物の気配が耐えない。

(写真:障子尾根縦走路から大障子岩を望む)


第2日目 2006年10月17日(火)晴れ
 池ノ原 → 祖母山 → 障子岳 → 古祖母山 → ぶな広場

 午前4:00起床。空気は乾燥しきっている。夜露が降りた様子もなく、辺りに敷き詰めた落ち葉はカサカサと音をたてている。テントが狭いのでザックはレインカバーを掛けて外に置いていたのだが、全く濡れていない。

今日は祖母山、障子岳、古祖母山と越えてぶな広場まで行く予定だ。明るくなるまで待って、6:00に出発する。池ノ原から宮原までは一旦降ってから緩やかに登り返す。笹が濃い所もあるが笹の葉は乾いていて濡れる心配はない。東の空に朝日が覗いた頃に宮原に着いた。宮原は尾平からの登山道が登って来ていて、周りを笹と樹林に囲まれ、少し窪んだ平坦地になっている。ここでも幕営出来そうだが、やはり池ノ原の方が適しているだろう。

宮原を過ぎると前ノ背、馬ノ背など展望が利く場所が何ヶ所かあり、祖母山頂が大きく迫ってくる。天狗岩の形もはっきりしてきた。紅葉はピークを迎えつつあるのか過ぎようとしているのか良く分からない。乾燥しているせいか葉っぱもカサカサしている。

メンノツラ谷分岐を過ぎると10分弱で祖母山九合目小屋に到着する。ここを訪れるのは10数年ぶりであるが、その頃はまだ古い小屋で、「あけぼの荘」と呼ばれていた。今は立派な山小屋に立て替えられている。山小屋の管理人さんは不在で、登山者の姿も見えなかった。そういえば、トイレがバイオトイレに変わっていると聞いた。早速、トイレを借りることにする。利用料金100円を払ってトイレに入る。水洗でもないのに全く臭いがしないのに驚いた。これはいい!

九合目小屋で朝飯にして、9時過ぎに祖母山頂へ向かって出発する。国観峠方面からの登山道に合流し、ガレた登山道を登って行くと祖母山頂に到着する。

山頂には誰も居ない。山頂からは昨日歩いた障子岩尾根とこれから歩く傾山への稜線が一望できるが、あいにく霞んでいる。山頂で写真を撮りながら休んでいると、高年の男性が一人登ってきた。北谷登山口から風穴コースを登って来たそうで、しばらくして国観峠方面へ降って行った。

山頂で20分程休んでから障子岳へ向けて出発する。今回、一番気になっていたのは祖母山山頂からの降りである。ガレた岩場の降りはとても危険で重いザックを背負って降ることが出来るか心配であった。ロープや木に縋りながら慎重に降って行く。何とか崖の下まで降って、さらにロープを伝い、ハシゴ場を幾つか降って行く。危険箇所を過ぎた頃、男女のペアが一組登って来た。多分、黒金尾根を登ってきたのであろう、その後も、数組の登山者とすれ違った。祖母山から障子岳までの登山道には何ヶ所か展望台がある。主なものにはウラ谷岩鼻、天狗岩、ミヤマ公園、烏帽子岩などの名前が付いている。前に尾平越から祖母山を往復したときは全ての展望台に立ち寄ったが、今日は空気の澄み具合もいまいちだし、展望台はパスすることにした。実際のところザックをおろしたり背負ったりするのが大変なのだ。それでも祖母山山頂直下、天狗岩の手前、ミヤマ公園などで展望を楽しみながら休憩した。烏帽子岩の紅葉が綺麗そうだが逆光で暗くてよく見えない。

12:18、障子岳山頂着。障子岳山頂は中央に露岩がある狭いスペースで、露岩の上には「熊の社」と彫られた石碑が立っている。山頂からの展望も良いが古祖母山方面へ少し降ったところにも岩場があり、休憩するにはこちらの方が良いであろう。また、障子岳からの降りには第七展望台から第一展望台まで、展望の良い岩場が次々と現れる。第一展望台の近くには水場があるが、雨が降っていないせいか、水量は僅かでペットボトル一本を満たすのにも結構時間がかかりそうであった。

第一展望台を過ぎると今までとは一変して緩やかな登りが続く。丈の短い草地に枝の絡み合った木が乱れて、荒涼とした感じの林があったり、笹の濃いところもあるが特に危険箇所は無い。

13:48古祖母山山頂に到着。
古祖母山の山頂は南西側に露岩があり、南から西の展望が得られる。反対側は潅木と笹に囲まれていて、その手前に三角点と山頂標識がある。縦走路は北側の潅木の間へ続いている。縦走路を進むとすぐに左右にコースが分かれる。どちらのコースをとっても、先で合流するが左側の方が展望が良く、障子岳、祖母山へと続く稜線と岩峰群が一望できる。両コースが合流すると登山道は東へ進み、ハシゴ場に差し掛かる。狭い岩の隙間にアルミ製のハシゴをふたつ繋いで設置してある。ザックを岩に引っ掛けないように慎重に降って行く。

古祖母山から尾平越まではひたすら降って行く。時折、樹の間から障子岩尾根が見え隠れする。登山道が右へ大きく降り、右側に涸れ谷が現れ、再び平坦な尾根道になると尾平越は近い。

尾平越には日本語と英語で書いた標識が立っている。以前はビンのかけらなどが散乱していたが、大分綺麗になっていた。しかし、なぜか瓶(かめ)の欠片が木の根元に寄せてある。尾平越からは県道7号線の大分側と宮崎側の両方へ道が降っている。県道7号線は尾平越近くをトンネルで越えているのだ。

今日の幕営地のぶな広場は尾平越から1km程本谷山方面へ登ったところにある。樹木が葉を落とし明るくなった尾根道を30分程歩くとぶなの巨木が立ち並ぶ平坦な尾根に着く。木の幹に「ぶな広場」と書いた板が取り付けてあり、広場の中央付近には焚き火の跡がある。祖母・傾を3泊4日で縦走するときにはここで幕営することが多いようだ。南側へ少し降ったところに沢が流れていて水場になっている。太いパイプが設置してあるが、今日はパイプから水は流れていない。しかし、沢水は流れているので、なんとか水は得られそうだ。

テントを張ってから、今日は水を使って夕食の準備をする。と言ってもお湯を入れて20分待つだけのアルファ米だが。。。

今夜も雨の心配はなさそうである。ザックはザックカバーをしてテントの外に置いておこう。。。

(写真:前の背から祖母山頂を望む)


第3日目 2006年10月18日(水)晴れ
 ぶな広場 → 本谷山 → 笠松山 → 九折越

 今日の予定は九折越までだ。4日間のうちで一番短い距離だ。完全に夜が明けてからぶな広場を出発する。1334.2mのピークへ向かって樹林帯の斜面を登って行く。後には木の間越しに障子岳や祖母山が朝日に染まって見え隠れしている。北側には、時折、一昨日歩いた前障子岩から大障子岩への稜線が見える。

1388mのピークの西の端には大きなぶなの木がある。この辺りは広い尾根で、スズタケは鹿の害であろうか枯れてしまっている。ぶなの木を眺めながらしばし休憩。

南側の展望が得られる露岩を過ぎ、笹に挟まれた登山道を登って行くと、やがて登山道を遮るような露岩に突き当たる。登山道は露岩の右側を巻いて登っている。初めはこの露岩が三国岩かと思っていたが、三国岩は少し進んだところから右へ入ったところにある。右は大障子岩から左は古祖母山まで、今まで歩いてきた山々の展望が広がる。

9:35、三国岩からさらに20分の登りで本谷山山頂に着く。本谷山山頂は笹と潅木に囲まれて展望は良くないが、僅かに北の障子岩尾根が展望できる所がある。

本谷山から降るとすぐに左へ水場の表示がある。笹の間に小さな沢が流れているのだが、やはり、ここも水量はかなり少ない。水場の近くには笹の間にテント一張り分の空間があるが、あまり快適そうではない。

笹の多い道をひたすら降って行くと、本谷山から35分程でトクビ展望台に着く。トクビ展望台は縦走路から少し東へ入ったところにある露岩であるが、展望台を経由して縦走路へ降れるのでザックを背負って行くことにする。トクビ展望台からは西に本谷山、その右側には天狗岩から祖母山、大障子岩、前障子岩と続く稜線、北東側には笠松山とその右側に傾山から坊主尾根の岩峰群が覗いている。

トクビ展望台から縦走路に戻り、笹の間の登山道をさらに降って行く。前方に前笠松山が見えてくる頃、右側に小ピークが現れる。ピークの麓は笹や倒木等で荒れた感じがするが、実はこのピークが地図上の笠松山である。縦走路上では前笠松山の方が有名になってしまい、一般的に笠松山と言うと前笠松山の方を指すようになってしまった。笠松山には以前登ったのでパスして前笠松山を目指すことにする。

登山道は前笠松山の下で分岐している。右へ進むのが縦走路で左へ登るのは前笠松山山頂へ向かう道である。ザックを置いて左の道へ入るとすぐに、また分岐がある。左は西展望台へ向かう道である。右へ登って行くと前笠松山の山頂に着く。山頂には露岩があり、「笠松山」の表示がある。山頂から引き返して西展望台へ向かう。西展望台からは障子岩尾根から祖母山方面の展望が得られる。笠松山の近くには縦走路を少し進んだところに、もう1ヵ所東展望台がある。東展望台からは傾山の展望が良い。

笠松山からはアップダウンを繰り返しながら降って行く。最後に下草のない広い樹林帯を越えると九折越の山小屋が見えてくる。九折越小屋は無人の山小屋で祖母・傾縦走を行う登山者の宿泊所として重要な役割を果たしている。山小屋から少し降ったところが今日のキャンプ地の九折越である。

12:58、九折越着。九折越は広い草地で北の九折登山口からと南の見立から登山道が登って来ている。広場の北側からは林の上に坊主尾根から傾山山頂まで岩峰が連なっているのが見える。
テントを張ってから水を汲みに行く。水場は見立方面へ5分ほど降ったところにある。岩の隙間に差し込まれたパイプからは冷たい水がたっぷりと流れていた。着いたときは誰も居なかったが、そのうちに、傾山方面から2、3組と笠松山方面から一人、九折登山口方面から一人の登山者がやって来た。一人はテント泊で2組が小屋に泊まるようだ。

夜中にトイレに起きると満天の星空であった。暗くなってから着いたのか、いつの間にかテントが一張り増えていた。

(写真:九折越のテント場と坊主尾根)


第4日目 2006年10月19日(木)晴れ時々曇り
 九折越 → 傾山 → 坊主尾根 → 三ツ尾 → 九折登山口 → 上畑

 いよいよ最終日だ。6:55に九折越を出発。段々と出発時間が遅くなっていく。最近、高血圧の治療で血圧降下剤を飲むようになってから朝が辛い。ザックを背負い、気合を入れて傾山へ向けて出発する。傾山への登山道はセンゲン尾根と呼ばれるなだらかな尾根を通っている。1400m地点辺りまでは緩やかなアップダウンはあるが快適な登山道が続く。傾山と後傾山の岩峰が頭上に聳えて迫力満点の姿を見せている。

1375m地点を過ぎた辺りから後傾山への急登が始まる。岩と木の根の間を喘ぎながら登って行く。後には本谷山のおおらかな山容が見え、前方には傾山の岩壁が間近に迫ってくる。右へ杉ヶ越への登山道を分けると間もなく後傾山山頂に着く。後傾山は九折越方面から見える大きな2つの岩峰の右側の岩峰である。谷を隔てて傾山の岩壁が間近に見える。

後傾山から一旦降って、登り返したところが傾山山頂である。降りきったところからは冷水コース・西山コースの登山道が分岐しており、傾山山頂手前からは坊主尾根コース・水場コースの登山道が分岐している。

8:58、八幡宮の祠の横に門の様に立ちはだかる大きな岩の間を抜けると傾山山頂だ。狭い平坦地に二等三角点と山頂標識がある。山頂から西へ踏み跡がついていて、展望の良い岩壁の上に行くことが出来る。前方には障子岩尾根から祖母山、障子岳と続く山並みが見える。左手にはセンゲン尾根、九折越、笠松山と続く稜線とその先には本谷山が大きな山容を見せている。また、右手には前傾山から五葉塚、坊主尾根、三ツ尾と続く変化にとんだ尾根が連なる。後傾山の岩壁の紅葉が綺麗であるが逆光で暗い。いつまでも見ていたい景色であるが、まだ先は長い。

傾山山頂手前から標識に従って坊主尾根方面へ降る。前傾山との鞍部辺りから見る傾山の岩壁は垂直に切れ落ちてまさに絶壁である。登山道が1ヵ所崩れてロープが張ってある。木の根につかまりながら何とか先へ進む。前傾山からは傾山の北面の紅葉が綺麗だ。紅に黄色、それに緑も混じっている。

前傾山からは意外と穏やかな道が続く。五葉塚で水場コースと坊主尾根コースに分岐する。分岐から少し進むと岩峰の左側を降り、固定ロープが設置してある15Mの岩場に差し掛かる。窪みの左の岩にステップがあり、思ったより簡単に降りられる。振り返ると五葉塚の岩峰が聳えている。鞍部へ降りつくと今度は二つ坊主への登りだ。いよいよアップダウンの始まりかと覚悟を決めてゆっくりと登って行く。反省材料がいっぱい詰まったザックは、最後の日にもかかわらずそれほど軽くなっていない。

1432mのピークに差し掛かると木々が根こそぎ地面から剥がれて右へ傾いている。道が分かりづらくなっているが、どうやら木の根の左側を進むようだ。左は断崖となって切れ落ちている。木の根にザックを引っ掛けないように注意しながら進む。

1432mピークを過ぎると今度は露岩のピークに出る。ザックを降ろしてしばし休憩する。西側には見慣れた風景が広がる。行く手には尾根からひとつだけ飛び出した吉作坊主が見え、その手前の岩稜にはハシゴが見える。2Mのクライムダウンと呼ばれているところだ。以前、この尾根を登ったときに一番怖い思いをした場所だ。今はハシゴがかかって通りやすくなっている。

ハシゴを上って岩稜を進むと今度は6Mのチムニーを降る。真ん中の窪みにロープが一本垂れ下がっている。ここもザックを引っ掛けないように慎重に降る。チムニーを降ると登山道は右へ鋭角に折れて岩稜の下を戻るようにトラバースして、割と広い鞍部に出る。次のピークが二つ坊主最後のピークで吉作坊主へ繋がっている。ここは頂上をパスして先へ進む。

二つ坊主を終えて次は三つ坊主にかかるが、道も大分悪くなってきた。岩場を登ったり、崩れかけた場所を越えたりで、次々と現れるピークをパスして行く。そして、最後の最後で道を外してしまった。最後の1347mピークの手前で登山道は東へ降って行くが、何を思ったかピークの東を巻いて尾根に出ようとしてしまった。尾根通しの道があり、それに合流するものと勘違いしてしまったのだ。林の中を20分程うろうろして元の道に帰り着き、素直に谷へ降って行く。しばらく降ると岩の基部を北へトラバースして尾根に出ると、すぐに水場コースと合流する。

時刻は13:00になっていた。三ツ尾まで行って昼飯にすることにして先を急ぐ。落ち葉が敷き詰めた尾根を20分程で三ツ尾に着く。三ツ尾は九折からの登山道と大白谷からの登山道が合流するところで、ここから観音滝のある沢まで急な降りが続く。林の中でインスタントラーメンを食べていると男性登山者が一人降りてきた。昨日、カンカケ谷から登って来て九折越小屋に泊まった人だ。ここが三ツ尾であることを確認し、写真を撮ると先に降って行った。

昼飯を終えて、私も最後の降りにかかる。標高差630m程を一気に降って行く。昼飯を食べて元気が出たのか結構いいペースで降り、途中で先行の男性を追い抜いてしまった。沢音が聞こえてくれば林道が近いのだが、なかなか沢音は聞こえてこない。長い降りだ。さすがに膝が痛くなりかけた頃、沢音が聞こえてきた。最後に尾根から左へ降ると林道へ飛び出す。

この林道は九折登山口の近くから九折越の下辺りまで延びている林道である。林道を降って上畑へ行くことも出来るが、やはり、通常の登山道を通って降ることにする。林道を横切ってさらに林の中を降ると5、6分で沢に着く。この沢のすぐ下は観音滝になっていて、覗き込んで落下しないよう注意書きがしてある。沢水で顔と頭を洗い、体を拭く。ちょっと寒いが4日ぶりの水浴びは気持ちがいい。

登山道歩きも後少しだが、気を抜かずに歩く。途中で観音滝が木の間から見える。観音滝は落差70mの一直線に滑り落ちる滝で、登山道の途中から滝壺へ降ることも出来るが、今日はとてもそんな元気はない。

小尾根を越えると豊栄鉱山跡に降る。左上部の坑道から水路が降ってきて川に掛けられた網目状の青い橋を渡っている。鉱山から流れ出る汚染された水を下の方で浄化しているようだ。登山道は青い橋を渡ってコンクリートの水路の横を通っている。水平な道を進み、左から流れてくる沢を渡って最後に急坂を降るとすぐに九折登山口に着く。

九折登山口には休憩所と駐車場が設けられていて、休憩所にはトイレも設置されている。駐車場には車が数台止まっていた。道路を挟んで休憩所の反対側には豊栄鉱山の処理施設が建っている。

無事に縦走を終えたという安心感があるが、まだ上畑まで4km程歩かなければならないので気分は開放されない。時刻は15:50。途中から登りになるので1時間半くらいはかかるだろう。17:30分を目標に上畑に向かって舗装された道路を歩き始める。

車道は九折川沿いにやや降り気味に進む。中間地点辺りで左へ回り込むように降り、奥岳川に架かる橋を渡ると今度は登り始める。途中で自転車で九折方面へ登ってくる登山者2人に出会った。昨日、九折越小屋に泊まった二人組だ。昨日尾平越まで行って、今日は祖母山から尾平へ降る予定が、傾山の登りで時間がかかり、九折越小屋泊まりになってしまったらしい。今日は尾平越まで行って、尾平へ降るようなことを言っていた。尾平に自転車をデポしていたようだ。挨拶を交わしてすれ違う。それにしても舗装路の歩きは足腰に堪える。

途中で10分程休憩したが、予定より少し早い17:10に車を停めてある健男社の駐車場に着いた。愛車RAV4は今回も忠実に私の帰りを待っていてくれた。

帰りに竹田の「月のしずく」という温泉に入った。この温泉は昨年オープンしたらしく、R57沿いにあって、夜10時まで営業しているので山の帰りには便利である。

(写真:九折越から傾山の岩峰を望む)


あとがき

 14年前に九州に戻ってからいつかは歩きたいと思っていた祖母・傾縦走をやっと実現できた。今回は準備半ばで計画を実行しなければならなくなり、体力的には大変きつかった。また、久しぶりのテント泊であった為、慎重になりすぎて装備に不要なものが多く、結果、ザックの重量が25kg超と私にとっては限界に近い重さになってしまった。このため、初日の行程で祖母山九合目小屋までたどり着けず、計画を変更して途中の池ノ原でキャンプすることになってしまった。しかし、無理して九合目小屋まで行けば、翌日以降に響いたかもしれないので、結果的には池ノ原でのキャンプは正解だったように思う。

池ノ原といい、ぶな広場といい、キャンプ地としてはとてもいい所である。小屋泊まりもいいが、たまには、たった一人で静かにテントを張るのもいいものだ。



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