山歩記 ][ 写真館 ][ ホーム ]

国見岳・後平家山・夫婦山周回縦走(2012年10月7、8日) → 写真集


 10月に入ってやっと秋らしい季節になってきた。日中の日差しはまだ暑いくらいであるが、夜になると気温もぐっと下がるようになった。天気予報によると、しばらく好天が続きそうで絶好の山日和だ。最近は三郡山地や犬鳴山系など近場の山ばかりで、2005年から毎年一回は行っていたテント泊での縦走も一昨年から途絶えてしまっている。腎臓病の治療やら、右手のしびれでリハビリに通ったりやらで山へ行けない日が続き、そのうちに体力も落ちてきて重いザックは背負えなくなってしまった。リハビリの甲斐あってか、右手のしびれはとれたが右肩痛が残ったままだ。腎臓のほうはこれ以上悪化しないように気をつけながら暮らすしかない。となれば、そろそろ途絶えていたテント泊での縦走を再開してもよいだろう。

 最後にテント泊で縦走したのは、2009年の10月30日から11月2日にかけて3泊4日で行った五家荘のウードヤ山から烏帽子岳までの周回縦走である。このときは、ウードヤ山から後平家山までは笹が濃い所が多くて藪こぎの連続だったのだが、最近、「泉・五家荘登山道整備プロジェクト」のみなさんがこのコースの登山道整備を行ったという情報を得た。この尾根にはぶなやミズナラ、カエデなどの巨木が多くみられ、ここに登山道があればと常々思っていたので、本当にありがたいことである。

 ターゲットは決まった。しかし、体力的に前回のようにはいかないので、山中一泊二日で国見岳から後平家山、夫婦山と周回するコースを設定した。余裕があれば南平家山をピストンして笹藪が濃かった辺りがどうなっているか見てこようと思う。今回のコースは2004年の8月に逆から日帰りでたどったことがある。その時は、樅木林道の途中から谷をたどって夫婦山へ登り、後平家山、国見岳と周回したのだが、猛烈な藪こぎと雷雨で散々な目にあった記憶がある。その後、2009年に縦走した時は夫婦山から後平家山にかけての笹はずいぶん勢いが無くなっていたのだが、さて、今回はどうだろう。


登山コース

一日目(10月7日) 行動時間:8時間55分 歩行距離:約10.5km
五勇谷橋(6:15) − (6:30)国見岳新道登山口(6:50) − (7:35)合流地点1− (8:20)合流地点2 − (9:10)ぶな古木の残骸 − (10:40)国見岳山頂(11:00) − (11:25)イチイの木 − (11:40)広河原登山道分岐 − (12:00)昼飯休憩(13:05) − (15:00)イチイ平 − (15:10)後平家山(テント泊)

二日目(10月8日) 行動時間:7時間    歩行距離:約13km
後平家山(8:00) − (9:55)夫婦山(10:10) − (11:00)林道出合(11:05) − (11:23)南平家山(11:30) − (11:40)林道出合(11:45) − (12:12)昼飯休憩(夫婦山南側の小谷)(13:00) − (13:35)谷の最奥 − (14:20)国見岳旧登山口 − (14:28)四等三角点(14:35) − (14:50)国見岳新道登山口 − (14:55)国見岳登山口 − (15:00)五勇谷橋

MAP

前日:久しぶりに五家荘へ


 10月6日(土曜)。天気はまあまあといったところ、久しぶりに五家荘へと車を走らせる。ルートはいつものように阿蘇を越えて445号線で五家荘へと入る。小石原で民陶祭が行われているので渋滞していないかというのと、阿蘇の水害による道路状況、445号線の状況が気になっていたのだが、片側通行箇所がいくつかあったものの、思ったよりスムーズに五家荘入りすることができた。

八八重から迂回路を通って林道樅木線へと続く道路へ入り、五勇谷橋手前のゲートに着いたときには日が暮れようとしていた。すでに登山者の車は無く、谷を流れる水の音だけがやたらと大きく聞こえる。今晩はここで車中泊だ。お湯を沸かして急いで夕飯をすませると早々と寝床に着く。なかなか寝付けないでいると、車が一台やってきて、Uターンできなかったのかバックして林道を戻って行った。どうやら手前の広い所に停めたようだ。

(写真:五勇谷橋ゲート前で車中泊)


一日目(その1):五勇谷橋から国見岳山頂まで
五勇谷橋 → 国見岳新道登山口 → 合流地点1 → 合流地点2 → ヒメシャラ八兄弟 → ブナの古木の残骸 → 広い樹林帯 → 国見岳山頂

 辺りが明るくなったころに五勇谷橋を出発する。国見岳への登山口は林道沿いに2箇所あったが、最近、新しい登山道が切り開かれてもう1箇所登山口ができたらしい。いつもは五勇谷橋に近い方の登山口から登っていたが、このコースは最初のほうがかなりの急登なので、これを改善するために、昨年新ルートを整備したそうだ。どの登山口から登っても途中で合流すのだが、せっかくなので、今日は新しい登山口から登ることにしよう。

 新しい登山口は、五勇谷橋から700m程の所の林道が尾根を回り込んでいるところにあり、「国見岳新登山口」と「国見岳新道」の道標が立っている。細い木の枝で作られた土止めの階段が尾根へ向かって登っている。ここは切り通しになっていて、登山口の反対側には小さなコブがあり、そこから尾根が川辺川へと降っている。登山道とは反対側へ踏み跡があったので少し覗いてみると、林の中に丸い筒のようなものがある。山里へ行くとたまに見かけることがあるが、多分、日本ミツバチの巣箱であろう。

国見岳新道は国見岳山頂から南西へ降っている尾根をまっすぐに登っている。登山道を登り始めてすぐ、林道から一段上った所からは南平家山方面の稜線とそこから降ってくる尾根が見える。ちょうど朝陽が稜線を照らし始めている。初めのうちはヒノキの植林帯の尾根を登って行き、標高1500m付近で「山と書いた石杭」を過ぎると自然林と枯れた笹が目立ってくる。途中で一か所「国見岳新道」の標識を見ると、10分ほどで五勇谷橋に近い方の登山口から登ってきた登山道と合流する。そちらの方が従来登られていた登山道であるが、かなりの急坂なので、これからは国見岳新道のほうがメインになるだろう。合流地点には「国見岳新道」と書いた真新しい標識が設置してあり、赤い矢印が新登山口の方を指示している。ここから上部は従来の登山道を歩く。

合流地点を過ぎるとワイヤーが2、3本地面を横切っているので足元に注意しながら歩こう。降りや、暗い時間帯は特に危険なので充分に注意が必要である。

傾斜はかなり緩やかになり、倒木や笹が濃い所もあらわれるが歩くのに支障はない。ブナなどの高木も現れ、徐々に脊梁山地の雰囲気が出てきた。左側に間伐材が散らかった植林帯をみてしばらく行くと、まだ元気な笹の間を通って大きな案内板の前にたどり着く。ここで、もう一か所上流側の登山口(旧登山口)から登ってきた登山道が左から合流する。五勇谷橋から旧登山口までは結構距離があるので、今までこの登山道を利用したことはない。

標高1400m付近は右から回り込むように尾根へあがって行くが、このあたりで南側の展望が得られ、烏帽子岳から五勇山へと続く稜線と、その向こう側に上福根山方面の景色を望むことができる。標高1400mを超えると傾斜はかなり緩やかになり、ブナ、笹、倒木など、脊梁の山を歩いているという実感がわいてくる。紅葉にはまだ、少し早いが、それでも巨木に巻きついた蔦の葉やカエデなどが赤く染まっている。

標高1425m付近にはヒメシャラの木が何本か生えていて、そのうち一か所に固まっているものにはいつ頃からか「ヒメシャラ八兄弟」の名前がつけられている。木の間越しに樅木林道終点付近から南平家山、五家宮岳と続く山並みを眺め、時々現れる赤く染まりかけたカエデの巨木に足を止めながら、ゆっくりと登って行く。「ヒメシャラ八兄弟」から20分程行った少し傾斜が急になり始めた辺りには朽ちた倒木の残骸が散乱している。これは、かつてこのコースのシンボル的存在だったブナの古木が倒壊してしまった跡である。私が最後にその雄姿を見たのは2005年の2月であった。

傾斜が急になって、登山道脇に露岩が目立つ辺りで休憩していると、夫婦らしい登山者が登ってきた。昨夜、バックで戻って行った人達で、今日は烏帽子岳まで周回するとのことだ。こちらは、ペースが落ちていたので先へ行ってもらう。国見岳山頂の近くにある「力水」で水を得られるかどうかわからないので、2Lのポリタンを二つ担いできた。その為、軽量化を心がけたにも関わらずザックの重量は20kgを越えてしまっている。五家荘の山々は登山道が整備されて長距離の縦走も可能になってきたが、難点は水場がほとんどないことだ。山中で一泊する場合は2日分の水を下から担ぎあげなければならない。これがかなりの負担になる。

急坂を過ぎると傾斜は緩やかになり、「国有林」の看板が立っている辺りからは明るい樹林帯の尾根を進む。途中、見覚えのある根元が洞になっている木を過ぎると尾根はさらに広くなる。足元にはブナの実の殻がたくさん落ちており、樹々の間に黄色く色づいた葉が光を浴びて輝いている。立ち止まってはあたりを見回し、また立ち止まっては上を見上げで、なかなか先へ進まない。今日の予定は、一応、後平家山までであるが、途中にテントを張れそうなところはたくさんあるので、あまり時間は気にしないことにした。それより、この自然を楽しもう。

1625m付近には登山道の右側にコブがあり、その上から陽光が差し込んでいる。これから紅葉で埋め尽くされそうな広い樹林帯が広がり、そこを抜けると傾斜が急になって、国見岳山頂への最後の登りが始まる。ここでまた、夫婦らしい今日2組目の登山者に追い抜かれた。左上に露岩が現れ、上が開けてくると背丈の低い笹が目立つようになり、大きな木はほとんど見られなくなる。前方に金網の柵で囲まれた所が現れ、登山道はその柵に沿って登って行く。この柵は、以前は見かけなかったようだが、何かを保護しているのだろうか。

辺りは開けて右手には烏帽子岳方面の景色が見えている。後ろを振り返れば、今日登ってきた尾根の向こう側にウードヤ山から五家宮岳と続く尾根も見えている。左手の岩の上に岩をつかむように立っている木がひと際目を引く。ほどなく、シャクナゲの木が茂ったあたりで五勇山方面への縦走路に合流する。この縦走路は小国見岳山頂の東側を巻き、五勇山、烏帽子岳、さらには峰越峠へと伸びている。縦走路との合流地点には、一応、道標があるが、国見岳から樅木へ降る場合は、この道標を見落とさないように注意が必要だ。最後に、シャクナゲの間を抜けて、露岩の上へあがるとそこが九州脊梁山地の最高峰、国見岳山頂(1739m)である。登山口から4時間近くかかってしまった。

山頂には樹林帯で抜かれた夫婦だけがいたが、しばらくすると、反対側から高年のグループが数名登ってきた。内大臣林道が通行可能になったとは聞いていないので、どこから登って来たのか尋ねてみると、椎矢峠から登ってきたとのことだ。どうやら、椎葉側は峠まで通行できるらしい。

(写真:国見岳山頂)


一日目(その2):国見岳から後平家山まで
国見岳山頂 → 杉の木谷登山道分岐 → イチイの木 → 広河原登山道分岐 → イチイ平 → 後平家山

 国見岳山頂で20分程展望を楽しんでから後平家山へ向かって出発する。山頂から北側へ降り、尾根上を少し行くと足元に道標がある。登山道はここで分岐している。そのまま直進する方へは「杉の木谷登山口」の表示があり、こちらは途中で門割林道の長谷登山口へ降る登山道や内大臣林道の杉の木谷登山口へ降る登山道、さらには山池湿原、高岳を経て椎矢峠まで続く縦走路が分岐している。「力水」はこのコースを少し降ったところにある。一方、左側へ緩やかに降る方へは「広河原登山口・平家山」の表示があり、こちらは、かつては国見岳へのメインルートであった内大臣林道の広河原登山口へ降る登山道である。途中で後平家山、平家山、京丈山、雁俣山と経て二本杉峠まで続く長大な縦走路が分岐している。

今日は後平家山へ向かうのでこの分岐を左へ折れて、細い木がまばらに生える斜面をトラバース気味に降って行く。この辺りの笹は枯れてしまい、枯れ木の幹や枝が白い肌を見せて散らばっている。踏み跡は薄く、落ち葉に隠れて分かりづらい。しかし、これからが今日のハイライトである。大きく枝を広げたブナの木、赤く色づいたカエデの大木、苔むした倒木、等の景色が広くなだらかな尾根に広がる。

縦走路と広河原登山道との分岐点までは思ったよりも距離がある。登山道は尾根の東側を通っているので、西側は見えないが、地図を見ると尾根が何本か分岐していて、その間を谷が降っているようだ。見覚えのあるイチイの巨木が見えてきて、西側へ浅い谷が降って行くのが見える辺りでやっと縦走路と広河原登山道の分岐が現れる。分岐には足元に小さな道標がある。道標は国見岳山頂と広河原登山道を指していて平家山方面を示す表示は無い。広河原登山道は国見岳へ登るメインの登山道で、私が高校の遠足で初めて国見岳に登った時もこの登山道を通ったのだった。しかし、最近は内大臣林道が豪雨のたびに崩壊を繰り返し、登山口まで車で入れなくなっている。その為、このコースを歩く人が少なくなっているようで、広い尾根についた踏み跡は薄く、標識がなければほとんどわからないくらいだ。

後平家山へ向かう縦走路も踏み跡はかなり薄い。笹が枯れているので、歩きやすい反面、登山道がどこを通っているのか判別しにくくなっている。それでも、苔むした倒木や木の枝が散乱した広い尾根を歩くのは気分が良いものだ。右下へは何本か谷が降っているはずだが、それも分からないくらい平坦な樹林帯が斜め下へ緩やかに広がっている。前回ここを歩いた時は雨が降っていたので、周りの景色を見る余裕はなかったが、今日は天気も良く、景色も明るいので、本当に来てよかったと思う。

昼時になったので休憩場所を探しながら歩く。腰掛けるのによさそうな倒木が一本横たわっている場所があったので、そこで昼飯にする。P1555を過ぎて北へ方向を変える所の鞍部付近である。東側にわずかな窪みがある平坦な斜面が広がっている。おそらく、ここから谷が降っていて、下のほうを広河原登山道が横切っているはずだ。食事を終えて、「いつか、力水の所にテントを張って、この辺りをゆっくりと散策したいな。。。」などと考えながらぼんやりと座っていると、日当たりが良いので、なんだか眠たくなってくる。ここまでは、ほとんどアップダウンがなかったが、これから小ピークがふたつほどある。地図を見ても地形が複雑で、登山道も右へ左へと曲がっているので気合を入れなおして出発する。

まずは、東へ降る尾根を右から回り込むようにしてP1578へ登って行く。P1578付近は巨木が多い。今まで消えていた笹も少し残っているが、ほぼ枯れかけていて、歩くのに全く支障はない。昔苦しめられた倒木は朽ちて緑の苔をまとい、自然へ帰ろうとしている。P1578はどこがピークなのか分からないくらい広い所なので、西側へ迷い込まないように目印をしっかりと追って行く。

P1578を過ぎてしばらく行くと西へ方向を変えてP1576へ向かって進むが、この辺りは朽ちた倒木が多くて進行方向が分かりにくいので注意が必要である。平坦な尾根は地図では痩せ尾根に見えるが、それほどでもなく十分な広さがある。P1576への登りに差し掛かると倒木が増えてきて、手前のコブ辺りは倒木で結構荒れている。P1576の右肩には立ち枯れた白い木が倒れずに立っていて目を引く。P1576付近は露岩が多く、立ち枯れた木が目立つが、明るくて展望は良い。南側にはなだらかな稜線の上に少し飛び出た山頂をもつ国見岳の姿も見えている。

P1576を過ぎると、後は平坦な広い尾根を進んでイチイ平に着く。登山道の右手の林の中に、幹は洞になって皮だけで立っているようなイチイの古木がそびえている。登山道脇に「イチイ平」の標識が立っていて、登山道はここから西の方へ進んで行く。苔むした倒木をいくつかかわしていくと、右へ降っている広い斜面をトラバースして行く。ここは今日の目的地である後平家山の北側の斜面である。テントを張るのに良い場所を探しながら、なるべく山頂に近い方へと進む。これだけ広い尾根でも平坦な場所は案外少ないもので、結局テントを張った場所は前回来た時と同じ場所であった。ザックを置いて後平家山の山頂へと向かう。ここへは過去に4回来ているが、一度も山頂を確認することなく通り過ぎている。なので、今回はテントを張る前にしっかりと山頂を踏んで記念写真を撮ってきた。山頂は笹がまばらに生え倒木が転がった林の中にあり、「泉・五家荘登山道整備プロジェクト」の真新しい山頂表示が設置してある。また、近くの木には「八代ドッペル登高会」が設置した古い標識が下がっている。

巨木が立ち並ぶ山頂の南側の尾根を少し散策してからテン場へ戻って今日の宿作りにかかる。前回来た時は紅葉の季節だったので落ち葉で埋め尽くされていた。今回は時期がちょっと早いので落ち葉は少なく、辺りには小枝が散乱していて、それを片づけるのに手間取った。テントを張り終えて、夕食を済ませるころには林の向こうに陽が沈みそうになっていた。

(写真:縦走路)


二日目(その1):後平家山から樅木林道出合まで
後平家山 → 夫婦山 → とぞの谷分岐 → 林道出合

 二日目の朝は爽やかに明けた。今回の縦走は時間に余裕があるので遅めに起きて、朝食を済ませると、さっそく撤収に取りかかる。空気が乾燥しているのか、テントの中は乾いていて作業は順調だ。しかし、のんびりしすぎて出発するころには時刻は8時になろうとしていた。

今日は後平家山から南へ延びる尾根をたどって樅木林道に出た後、五勇谷橋まで林道を歩いて帰る予定だ。この尾根は自然が豊かで、ブナやカエデの大木も多い。尾根の途中には夫婦山(1460m)があり、林道出合からさらに先には南平家山、五家宮岳、ウードヤ山と続いている。前回はこの尾根を逆から辿って二泊目がここ後平家山であった。立ちはだかる笹の海に翻弄されて、途中で一泊を余儀なくされたのだが、今年の9月に「泉・五家荘登山道整備プロジェクト」の皆さんがこの尾根を通る登山道を整備したという情報を得ている。今回は天気もよいし、降りでもあるので快適に歩けることを期待しながらテン場を後にする。

後平家山で記念写真を撮ってから南へ向かう。一日目に歩いた尾根に比べると、この尾根は笹が目立つが、以前に比べるとずいぶん勢いが無くなっている。その笹の中に背の高い樹木が何本もそびえている。時折、木の間越しに五家宮岳、大金峰、小金峰など遠くの山並みが見えたりするので、上を見上げたり、遠くの景色を眺めたりで忙しい。降りきった鞍部は笹もほとんど枯れ、明るくていい雰囲気だ。左へ浅い谷が緩やかな広がりを見せて降っているが水音は聞こえない。

鞍部から登りあげた小ピークには巨木が枝を広げている。このあたりは地形が複雑なので注意が必要だ。南東へ緩やかな尾根が延びているので、いったんそちらへ進み、すぐに南へと降って行く。ここでも左手に広い谷が緩やかに降っている。降りきった鞍部にはヒメシャラの木が何本か見られる。倒木に腰掛けて休憩していると、左の谷から水音が聞こえてくる。ここでテントを張れば水が得られるのかもしれない。

次のピークには「標高1460m」の標識が木の幹に取り付けてある。標識には後平家山と夫婦山の方向を矢印で示してある。登山道はここでほぼ直角に折れている。ピンクのリボンが目印になっているようだ。一旦降って南へ方向を変えると、緩やかな尾根を辿って1470mのピークを目指す。笹は立ち枯れの状態で全く支障はない。時折右手の木に間越しに京丈山方面の山並みが見え隠れしている。

1470mのピークは広くて、落ち葉の季節には一面落ち葉で埋め尽くされ、思わず寝ころびたくなるような気持のよいピークである。しかし、その時期には少し早く、なんとなく歩いているうちに通り過ぎてしまった。少し降って次のピークが夫婦山であるが、その手前にピンクのテープを3本巻いてある木が見えた。道が合流する所によく見られる目印だ。地図を見るとこのあたりから西へ破線が延びていて、平家山の登山口がある林道へ降っている。もしかすると、この道が今も活きているのだろうか。

夫婦山は1460mのピークで泉・五家荘登山道整備プロジェクトの山頂表示と八代ドッペル登高会の山頂表示板がある。東側にもうひとつピークがあって、それが山名の由来になっているのであろう。空高くめざして延びる高木が多い自然豊かな山頂で、いつまでもゆっくりしたい所である。8年前に初めてこの尾根を歩いた時は、樅木林道から谷をたどってこのピークへ登ってきた。ここから後平家山までひたすら笹の波を漕いだのだった。あれほど苦しめられた笹も今では枯れ果てようとしている。

夫婦山からの降りの尾根は両側の笹もやや勢いを増していて、登山道を整備した痕跡が明瞭になってくる。朽ちた倒木が多くなってくると頭上は明るく開けてくる。左へ切り分けがあり、先が明るいので覗いてみると、開けた尾根の斜面に出る。谷を隔てて国見岳や烏帽子岳方面の景色が見える。尾根にそって踏み跡らしきものが見え、左下には3本の赤テープが見える。この下を樅木林道が通っているはずなので、例の谷から登って来るルートなのかもしれない。

登山道の両側の笹はさらに勢いを増すが、整備されたばかりの道は歩くのになんの支障もない。樹木は次第に少なくなって、笹とススキと倒木が増えてくる。その中に立ち枯れた木が白い木肌を見せている。左下の林の中を回り込んで再び笹とススキと倒木の尾根に出ると切り分けられた登山道を進んで行く。途中で牛の糞のような巨大な糞が落ちていたが、こんな大きな糞を排泄する動物とは何だろうか。。。

再び木が増えてくるとP1431に差し掛かる。この辺りは高木が多くて、色づき始めている木も何本か見受けられる。登山道はなかなか林道と合流しないで並行するように尾根を進んで行く。道は良く整備されていて、前回は見逃した「とぞの谷分岐」も今回はしっかりと確認できた。そこから5、6分でやっと林道出合に到着。夫婦山からここまで約1時間、結構長く感じた。

(写真:縦走路の高木たち)


二日目(その2):樅木林道出合から南平家山往復
林道出合 → 南平家山 → 林道出合

 時刻は11時。ここから五勇谷橋までは昼飯休憩も入れて3時間くらいだろう。せっかくなので南平家山を往復することにする。ザックをデポして空身で出発する。ここから南平家山までの区間は、前回の縦走時に笹と格闘した記憶がある。しかし、笹は切り分けられて程良い幅の道が作られている。登りにかかるところで、いきなり、朽ちた倒木が積み重なって足元が悪くなっていたが、そこから先は快適な縦走路が続いていた。登山道が露岩の上を通る辺りからは東に烏帽子岳から五勇山、小国見岳方面の展望が得られる。

背丈の高い元気な笹に挟まれた登山道は、倒木も程良く処理してあり、快適そのものである。あらためて、整備してくださった方々に感謝しながら20分弱で南平家山山頂への分岐に着く。縦走路は南平家山山頂の東側を巻いているので、山頂へは西へ少し登らなければならない。登り口には木の幹に道標が取り付けてある。下を向いて歩くと見逃しやすいので、注意が必要だ。山頂は縦走路からすぐのところにある。

南平家山(1510m)は三等三角点の山で、山頂には登山道整備プロジェクトが設置した山頂表示が設置してある。前回来た時は笹と林にかこまれた狭い所に三角点だけがポツンと設置されていて、傍の木に山頂表示の板がぶら下げてあったのだが、今は、木が伐採されて広く明るくなっている。

(写真:南平家山山頂)


二日目(その3):樅木林道出合から五勇谷橋まで
林道出合 → 夫婦山南側の小谷(昼飯休憩) → 谷の最奥(滝が見える堰堤) → 国見岳旧登山口 → 四等三角点 → 国見岳新道登山口 → 国見岳登山口 → 五勇谷橋

 南平家山から再び林道出合へ戻ってザックを拾うと林道へ出る。この林道の終点はもう少し先であるが、ススキに埋もれて先の様子はわからない。降る側もススキで覆われているが、その中を縫うように歩い行く。このあたりは高い樹が多くて、皆空へ向かって枝を伸ばしている。もう少しすれば紅葉でとても綺麗になる所だ。林道を少し降ると放置されたトラックが草むらで錆びついているのが見えてくる。その傍にはやはり錆びついたドラム缶がポツンと置かれている。

林道はほとんど勾配がなく、尾根にそって延びている。おそらく左上の尾根には今日降ってきた登山道が通っているはずだ。林道は荒れていて、法面や路肩が崩壊している。車はもちろん通れない。土砂でほとんど埋まっているところを横切る一本の踏み跡を辿るところはさすがに緊張する。林が切れると右の谷越しに国見岳方面の山並が見える。正面には夫婦山の山頂付近が見えている。

林道は夫婦山の南側の小谷にぶつかると東へ方向を変えて、夫婦山のもう一つのピークから南や東へ張り出している尾根を回り込んで行く。実は、この小谷は、8年前初めてこの尾根を歩いた時に取り付いた谷である。この小谷の付近にはピンクのリボンが幾つか見える。谷の途中にもリボンが見えるのでこの谷にルートができたのかもしれない。そういえば、夫婦山山頂から少し降った所の開けた斜面にもテープがあったので、そこへ登りあげているのかもしれない。懐かしくもあり、ちょうど昼時でもあったので、この小谷の入口で昼飯休憩にした。

食後のお茶を飲みながら過去の山行を思い返してみる。この尾根は過去に2度、8年前の夏と3年前の秋に歩いたことがある。8年前は、この尾根に登山道があればいいなと思いながら何の情報もないまま、計画を立て、尾根への取り付き点を探しながら林道終点辺りまで行った。結局引き返してこの谷から夫婦山の山頂へ登って、後平家山、国見岳と周回したのであった。谷は倒木と藪で荒れていて、途中から右の尾根を藪こぎして夫婦山の山頂へ登りあげたのだが、このピークに夫婦山という名が付いていたのさえ知らなかった。ただ、ガスの中で笹の波の上に枝を広げるブナの巨木だけが印象に残っている。そこからひたすら笹藪を漕いで、結局、谷に取り付いてから6時間もかけて後平家山の北側を通る縦走路に辿りついたのだ。3年前は樅木からウードヤ山、五家宮岳と辿り、途中一泊して南平家山、夫婦山、後平家山と歩いた。この時は「ウードヤ山」という変わった名前にひかれたのと、やはりこの尾根に登山道があればというあきらめきれない気持ちで計画を立てたのだが、ウードヤ山と五家宮岳の情報はネットで見つけていた。しかし、この時もやはり、笹の洗礼を受けてしまった。特にウードヤ山から夫婦山までは笹と倒木で大変だった記憶がある。しかし、夫婦山から後平家山までの間は8年前に比べて笹の勢いが無くなり、手でポキポキと折れるくらいになっていた。脊梁山地の笹は次第に枯れていく運命にあるのかもしれない。それが樹木に悪影響を及ぼさなければよいのだが。。。

昼飯休憩を終えて再び林道を歩きだす。後ろには夫婦山から林道終点付近、南平家山、五家宮岳と尾根が連なり、右下には川辺川が流れる谷が遠くまで続いている。前方には国見岳から張り出した尾根が迫ってくる。なかでも、国見岳山頂から西へ降る尾根のひとつは岩尾根になっているようで、ところどころ灰色の岩肌を見せながら尖ったピークへと登りあげている。もう少ししたら紅葉で絶景が見られそうな景色だ。夫婦山から東へ張り出している尾根を回り込んで北へ向かうと、杉の植林帯に間伐材なのか倒木なのか分からない木が散らかっている。枯れた杉の木は林道にも倒れ掛かってきていて、少し荒れた様相だ。対岸の道路が見え、眼下に谷の流れも見えてきたころ、崩壊した斜面を横切ると、白いガードレールと堰堤が見えてくる。

ここは林道の一番奥まったところで、林道はここで川辺川の左岸へ渡っている。堰堤から流れ落ちた水は林道の下を通って下流へと流れていく。堰堤の上には左右に滝が見えている。堰堤の上で谷が合流していて、これらの滝はそれぞれの谷の出口になっているようだ。左側の滝は斜めに太い流れを放出している。右側の滝は木の枝と蔓に隠れて見えにくいが、少し幅が広くて幾筋かに分かれて流れ落ちているようだ。左側の滝のある谷は「ヒガエリ谷」という谷で後平家山からなんかする尾根の東側の谷が集まってきていて、今日歩いて来た尾根の鞍部から東へ降っている谷はすべてこの谷に合流しているはずだ。もう一方の右側の滝がある谷は「マタロク谷」と呼ばれていて、こちらは国見岳山頂付近から降る谷が集まってきたものである。どちらもネットで検索すると沢登りの記録を見ることができる。

川辺川を渡ると林道は南へ降って行くが、今までとは一変して崩壊個所も無く路面も綺麗になってくる。対岸へ渡ってすぐに眼下の流れにヤマメだろうか魚が3匹泳いでいるのが見えた。堰堤があっても水は澄んで綺麗だ。林道は、尾根を回り込んでは小谷を渡り、を繰り返していくが、そのうちの一つの谷で鹿を見かけた。写真を撮ってもこちらをジッと見つめて逃げようとしない。結局、私が去るまでジッと佇んだままだった。鹿は人の気配を感じるとすぐに逃げるのだが、近くに子供でも居たのだろうか。

国見岳の旧登山口で休憩を取ろうと考えてひたすら歩いていたのだが、それらしき所を確認できないまま通り過ぎてしまった。後で気づいたのだが、旧登山口は鉄骨の中に石を詰めて作った大きな堰堤の所にあったはずだ。8年前にそこを通った時は堰堤の工事をしていたのだが、登山口の立派な標識が立っていた。今日はそれらしき標識を見かけなかったような気がする。その代わりに、堰堤の上の左の谷にあるコンクリート製の堰堤にスズメバチの巣が張りついているのを見てしまった。いずれにしろ、国見岳新道ができたので、従来の登山道はお役目終了で自然へ還してよいのかもしれない。

路肩に「基本測量」と書かれた白い杭が立っているところで休憩したが、良く見ると四等三角点が設置してある。地図には何の記載もないので最近設置したのだろう。南側には国見岳新道の登山口がある切り通しが見えている。五勇谷橋まであと少しだ。気合を入れなおして、そこから約30分で五勇谷橋に到着した。ゲートの向こうに、愛車RAV4が今日も私の帰りを待っていてくれた。

(写真:途中で出会った鹿)


あとがき

 本当に、久しぶりの五家荘だったが、やっぱり、脊梁山地はいい。もう少し、山中に居たかったが、今の体力では一泊くらいがちょうど良いだろう。今回歩いたコースはこの山域の自然を満喫できるコースである。登山道も整備されて、以前に比べれば随分歩きやすくなった。しかし、国見岳から先は踏み跡が薄く、これからの季節は落ち葉で隠れて分かりにくいので注意が必要だ。また、全体的に尾根が広いので進行方向が変わるところは、しっかりと確認して歩かなければならない。また、樅木林道は一番奥で谷を渡るところから林道終点までは荒廃していて、崩壊箇所が多い。しかし、時間がないときはこの林道を散歩するだけでも楽しいかもしれない。特に新緑の季節や紅葉の季節には素敵な景色に巡り合えるだろう。

このコースは、がんばれば日帰りでも歩ける距離である。しかし、この自然を堪能するには一泊ぐらいでゆっくりと歩くことをお勧めしたい。今回歩いたコースの逆回りは、林道歩きと後平家山までの緩やかな登りが結構長く感じられる。それと、国見岳からの降りで登山道をワイヤーが3本横切っているところがあるので、時間が遅くなって焦ったりすると危ないかもしれない。体力と時間があれば、五家宮岳やウードヤ山、あるいは五勇山や烏帽子岳、さらには白鳥山や上福根山などを組み合わせた周回コースなども設定できるだろう。実際に、3年前はウードヤ山から上福根山までの周回を計画したが、持病薬が切れたのと天候の悪化で烏帽子岳からエスケープしてしまった。いつか、再チャレンジしたいが。。。

最後に、この山域の登山道整備をしてくださっている「泉・五家荘登山道整備プロジェクト」の皆さんとボランティアで協力してくださっている有志の皆さん方に感謝したい。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送