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凍る滝を訪ねて(2012年冬) → 写真集


 三郡山地で氷瀑といえば難所ヶ滝(正式には「河原谷(ごうらだに)の大つらら」と呼ぶらしい)であるが、この難所ヶ滝の少し下にもつららで覆われる岩壁があり、「小つらら」と呼ばれている。昨冬は近年まれに見る凍結具合だったそうだが、残念ながらそれを見ることは出来なかった。今年は英彦山の幻の滝(四王寺の滝)が脚光を浴びているようだが、難所ヶ滝の方も負けてはいない。寒波がやってくると氷瀑見物の登山者が沢山訪れている。

ところで、以前から気になっていたのだが、三郡山地には大つらら、小つらら以外に凍結する滝(または岩壁)はないのだろうか。「凍結する条件はなんだろう。。。」と考えてみると、おそらく標高と水量であろう。難所ヶ滝の標高が約720m、小つららの方は650m辺りであろうか。水量はどちらもほとんど水の流れはなくて岩壁が湿っている程度である。滝の傾斜は斜めになっているより垂直に近いほうがつららが出来やすそうだ。

昨年は三郡山地の西側の谷を何本か歩いて、幾つかの滝に遭遇した。その中に凍結する条件に合いそうな滝がないか思い返してみると、幾つか思い浮かんだので、寒波が来た時にそこを訪ねてみることにした。


今回訪ねた滝

1.河原谷の大つらら(難所ヶ滝)、小つららと水場の滝
2.欅谷の支谷にある大滝
3.草ヶ谷の大滝
4.宇美4号橋の谷の源頭部にある滝


難所ヶ滝
昭和の森 → 河原谷 → 小つらら → 大つらら(難所ヶ滝) → 水場の滝

 まずは、やっぱり難所ヶ滝を見ておこう。難所ヶ滝は河原谷の標高720m辺り(滝の下の案内板には724mと記載してある)にある。福岡市近郊で凍る滝として有名で、毎冬、寒波がやってくると氷瀑見物の人たちでにぎわう所だ。本来、「河原谷(ごうらだに)の大つらら」と呼ぶのが正解らしいが、誰かが近くにある難所ヶ滝と間違えて広めたらしく、いつの間にか難所ヶ滝として広く知られるようになってしまった。本物の難所ヶ滝は国土地理院の地形図の滝の記号の所にちゃんと存在していて、こちらは水量が多いので冬場でも凍結しないようだ。

ここでは、難所ヶ滝の呼び名で通すことにするが、この滝は凍結している時以外に見ると、ただの濡れた岩壁で、滝とは呼べない代物である。しかし、このただの濡れた岩壁というのが、このくらいの標高で冬場に氷瀑を作る大きな要因となっている。冬の寒気が強まった時に、岩壁を滴る雫が少しずつ、少しずつ凍って、最終的には大つららへと成長していくのである。

河原谷にはもう1箇所、難所ヶ滝よりも下の方につららで覆われる岩壁があり「小つらら」と呼ばれている。「小つらら」という呼び名から大した事なさそうに思えるが、本格的に凍ると、何段もの白いつららが壁を覆って見事である。

今冬は12月に2度、1月と2月に1度ずつ訪ねたが、寒波が訪れた1月、2月の方が凍結具合いはよかった。河原谷の登山道には難所ヶ滝までの道標が新しく設置されていて、難所ヶ滝の直下には大きな案内板まで設置してあった。河原谷登山道から難所ヶ滝への上り下りの道は、多くの登山者に踏み固められ、融けた雪が凍っていてとても滑りやすい。ここは軽アイゼンを着けたほうがよさそうだ。私はmont-bellのチェーンスパイクを愛用しているが、三郡山辺りではこれで十分である。着脱が簡単に出来るのがよい。

河原谷には難所ヶ滝の他にもうひとつ滝がある。河原谷コースを難所ヶ滝へ向かわずに直進すると右側に大きな木が立っている。この木の奥に仏頂山から降ってきている谷があってその谷の最後が滝になっているのだ。以前は木の根元に水場の標識が置いてあったが今もあるかどうか分からない。2月に難所ヶ滝を訪れた時にこの滝の様子を見に行ってみた。この滝は長いスロープを描いて流れてきて最後に少し角度が急になって落ちている。雪に隠れて見えにくいが滝の流れは凍結して氷の下を微かに水が流れているように見える。しかし、傾斜が緩やかなのでつららはできない。

難所ヶ滝はやはり三郡山地で一番の氷瀑であろう。最近、氷瀑見物の人が益々増えてきたので休日はちょっと躊躇するが、毎年1、2回は訪れたいと思う。ひょっとすると、河原谷には、まだ人知れず凍っている滝があるのかもしれない。。。

(写真:河原谷の大つららと小つらら)


欅谷の大滝
昭和の森 → 欅谷Bコース → 大滝の谷入口 → 大滝 → 尾根沿を辿って天の泉付近の縦走路へ → 難所ヶ滝 → 昭和の森

 さて、ここからは隠れた氷瀑を探しに行こう。まずは、欅谷の大滝を訪ねてみることにする。

欅谷へ流れ込む支谷のなかで、三郡山山頂直下から降ってくる谷と頭巾山から天の泉辺りにかけての稜線から集まってきた谷が合流する二俣には絶壁として立ちはだかる滝がある。この滝は三郡山側の谷の入口にあって、上部は垂直に切れ落ち、その下は岩の斜面を削って出来た溝を斜めに流れ落ちている。滝の下は倒木で若干荒れて砂利で埋まり、水量が少ないこともあって滝壺は見られない。また、この大滝の上にも斜めに流れ落ちる結構大きな滝がある。この滝は、倒木に隠れて全体の様子を見ることは出来ないが、上部に少しだけ垂直の部分がある。また、二俣から頭巾山側の谷へ少し入ったところにも小さな滝があって、その下から二俣まで、なだらかな岩のスロープを水が滑り落ちている。この二俣の標高は720mくらいで難所ヶ滝と同じぐらいの高さにあるので、凍結している可能性が高い。

寒波がやってきて気温が下がった後の1月26日と2月4日にこの谷を訪れてみた。谷の入口は欅谷Bコースの途中にある。欅谷Bコース登山口の上の堰堤作業道から登山道へ入って約30分くらいの所に、堆積した岩と倒木で荒れた谷を横切る所があるが、この谷が目的の大滝がある支谷である。ちなみに、欅谷Bコースの登山道はこの谷の手前でロープの急坂を登る所があり、この谷を横切った先には炭焼き窯の中を通る所がある。

谷の入口から滝のある二俣までは約10分ほどで、堆積した岩と倒木を横切って左岸に積み重なった岩の上を辿って行く。最後に杉の倒木の下を抜けると、谷底に転がる大きな岩と倒木の向こうに、氷と雪で白くなった岩壁が見えてくる。凍結した大滝だ。岩と倒木の間を抜けて二俣に立つと、左に凍結した大滝、右になだらかな岩の上を降りてくる氷のスロープが見える。二俣からは見えないが、このスロープの上の方には規模は小さいが垂直の段差を持つ滝があり、そこも凍結していた。また、右の谷の左岸へ降ってきている急なガレ谷にもつららがあちこちに見え、水の流れは全て凍りついている。

大滝の下の方は傾斜のある岩肌を雪が覆っていて氷があるのかどうか分からないが、上の垂直の部分は突き出た岩を挟んで両側が凍っている。左側はゴツゴツとした氷で覆われており、右側はつららが何段かに連なっているようだ。

1月26日はこの二俣の間の尾根を辿って天の泉付近から三郡山方面へ登る辺りの縦走路へ出たが、2月4日は草ヶ谷の大滝を見に行った後、頭巾山山頂から谷を降ってきたので、途中で大滝の上へ出て、その上にある滝の様子を見に行ってみた。この日は比較的雪が多かったので、斜めに流れている部分は雪に覆われて見えなかったが、滝の上の垂直に落ちている部分はぶ厚い氷で覆われているのが見られた。おそらくこの谷の流れは全て凍ってしまっているのだろう。。。

(写真:凍結した欅谷の大滝)


草ヶ谷の大滝
昭和の森 → ナメ滝 → 斜め滝 → 樋の滝 → 巨木巡り → 大滝 → 倒木の滝 → 頭巾山山頂 → 欅谷の大滝 → 欅谷Bコース → 昭和の森

 次に気になる滝は草ヶ谷の大滝である。草ヶ谷にはナメ滝や斜め滝など特徴のある滝が幾つかあるが、いずれも標高が低くて凍結しそうにない。しかし、この大滝は標高650m〜700m付近にあり、河原谷の小つららと同じくらいの高さにある。また、この大滝の上にももうひとつ滝があるのでもしかしたら凍結した滝を見れるかもしれない。

寒波が通り過ぎようとしている2月4日に昭和の森から草ヶ谷の大滝を目指した。一本松林道の終点から沢を渡り杉林を抜けて林道へ出たところで、前を歩いていた難所ヶ滝見物の団体と分かれて河原谷とは反対側へ向かう。左へ分岐する堰堤工事用の作業道を見送って、少し進んだところから左へ降り二俣へ降りる。以前通っていた小谷を横切るコースはブッシュ化して歩きにくくなったので、最近はもっぱらこの二俣から上がるコースを通っている。

今日の目的は大滝であるが、やはりナメ滝を始めとする気になるポイントは巡って行きたい。まずはナメ滝だ。ナメ滝は今日も優雅な曲線を描いて流れている。滝の周りの苔むした岩には砂糖をまぶしたように薄っすらと雪が積もっている。

次に立ち寄ったのは斜め滝である。この滝は落差こそないが滝壺を持っていて、ゴツゴツとした岩が特徴的である。岩の端っこに小さなつららが何本か下がっているが、まだまだ、凍結には程遠い状況だ。この辺りまで左岸を辿って来たが、右に岩壁が連なる辺りで右岸へ渡ってみる。この辺りの右岸には濡れた滑らかな岩壁があった記憶がある。標高は570m位で若干低いが、もしかしたらと思って立ち寄ってみる。濡れた岩は微かに凍っていて、岩の窪に氷が張り付いて白くなっているところもあるが、氷は薄くてもろそうである。この上部にも岩壁や一枚岩のナメが降っている谷があり、覗いてみたい衝動に駆られるが、今日の目的はあくまでも大滝だと言い聞かせて先へ進むことにする。

右下に樋の滝を見ながら谷の右岸を辿ると大きな岩の上で巨木が出迎えてくれる。最初はブナだと思い、次にケヤキだろうかと思い、未だに何の樹か確信できないが、太い根を岩に這わせて大きく枝を広げている。同じ種類の巨木が右岸の岩の上にもう1本、左岸に数本立っている。これらを巡ってから、頭巾山山頂の西側の鞍部から降ってきている広い谷との合流地点辺りで右岸へ渡り返して、大滝の入口がある二俣へ向かう。

大滝は二俣の左側の谷にある。右側の谷はP856から降ってきているが、奥の方の岩の段差につららが見えている。二俣から二つの谷の間の尾根を辿って大滝の上段の滝の下へ出る。大滝は一面白い雪で覆われていて氷の様子は見えないが、所々段差のある岩のところに厚い氷が見えるので、かなり凍結していると思われる。しかし、氷瀑といった感じではない。やはり垂直の壁を持った滝でなければだめなようだ。大滝の上にある倒木が横たわった滝も、斜めになった岩の窪みを流れ落ちているので雪で隠れて分からないが、濡れた岩を覆うように凍っているように見えた。

雪が舞う中、荒れた谷を辿って何とか頭巾山山頂に辿り着く。山頂には難所ヶ滝見物から帰る途中の登山者が数名休憩していた。この日は頭巾山山頂から三角岩のある谷を降って欅谷の大滝の様子を見に行った。(欅谷の大滝の様子については前の項を参照。)

(写真:草ヶ谷の大滝)


宇美4号橋の谷の源頭部の滝
昭和の森 → 難所ヶ滝 → 頭巾山 → 三郡山 → (欅谷Aコース) → 宇美4号橋の谷 → 二つ釜コース → 昭和の森

 さて、凍結するのではないかと気になっている最後の滝を訪ねてみよう。その滝は欅谷の宇美4号橋が架かっている谷の源頭部にあり、辺りは急な林の斜面と切り立った岩壁に挟まれた狭い谷で、岩の上に出来た細い溝を僅かな水が流れている。この谷の最後の方は崩壊した斜面になっていて、地図で確認するとその上の尾根を内ヶ畑コースの登山道が通っているようだ。

今回注目したのは、細い溝が上部の崩壊地へと登り上げる所の境目にあるゴツゴツとした岩の辺りで、右側から垂直に流れ落ちている滝である。この滝は水量が少なく、晴天が続くと平べったい岩を湿らしながら水が滴り落ちる程度であるが、水量が増えると水の流れが一本真っ直ぐに落ちてくる。標高は670m辺りなので難所ヶ滝よりは少し低いが、小つららくらいの高さにはある。滝へ水を落としている谷は欅谷Aコースの登山口と内ヶ畑コースの登山口の間から降ってきているが、谷底には落ち葉の下に平べったい岩が見え隠れしている。

この場所へは過去に2度来たことがある。最初は宇美4号橋の所から谷を遡って来たが、いたるところ倒木だらけでとても難儀した記憶がある。2度目は昨年の紅葉の時期に欅谷Aコースの途中からトラバース気味に進み、谷の出合い付近へ降りたが、途中に岩尾根や険しい小谷があったりで、これもちょっと分かりにくいルートである。

今回は難所ヶ滝を経由して三郡山へ登り、欅谷Aコースへと周回したので、欅谷Aコースの途中から登山道の西側の谷へ降りて谷沿いに降って行ったが、これも、やはり大変であった。お気に入りの場所になりつつあるので何とか良いルートを探したいものだ。

さて、問題の滝であるが期待した通り凍結していて、雪で薄っすらと白くなった岩の段差をつららのカーテンが降りてきている。それほど規模は大きくないが周りの岩や林と相まって、いい雰囲気だ。昨冬のような寒波がやってくれば、もっと迫力のある風景が見られるかもしれない。

今日降ってきた谷が合流する辺りには平坦な場所があって、ここに来た時は休憩場所にしている。2度目に来た時に気付いたのだが、辺りをよく見ると炭焼き窯の跡が埋もれているようで、石垣が少し残っている。三郡山地の谷には必ずと言って良いほど炭焼き窯の跡があり、今までにもいくつもの炭焼き窯の跡に出くわした。そして、かつてはそこへ至る道が必ずあったはずなのだ。。。

(写真:宇美4号橋の谷の源頭部の滝)


あとがき

 凍る滝を探して何箇所か谷を訪ねてみたが、凍る滝の条件は標高と水量であり、見栄えを左右するのは滝の傾斜であることが分かった。標高は650m以上、水量は少なくて、滝の岩壁を広く濡らしているほうが良い。滝の傾斜がほぼ垂直で、出来れば階段状になっている方が綺麗なつららのカーテンが出来上がる。今回訪ねた滝はどれも期待通りの景色を見せてくれた。特に欅谷の大滝と、宇美4号橋の谷の源頭部にある滝はもう少し寒気が強まればもっと迫力のある氷瀑へと成長するかもしれない。

なお、今回訪ねた谷は、河原谷以外は登山道がない場所なので、安易に立ち入らないようにしましょう。


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